岡田 康介
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リポ多糖・とは？
リポ多糖（lipopolysaccharide, LPS）は、主にグラム陰性菌の外膜に存在する大きな分子です。日本語では「脂質多糖」と呼ばれることもあり、細菌の“身代わり”とも言える毒素様の性質を持ちます。体内で強い免疫反応を引き起こすことがあり、研究分野では endotoxin として広く知られています。
重要な点は、リポ多糖が細菌の外膜を安定させる役割を持つ一方で、宿主の免疫細胞に対して強い警報信号を送ることです。これにより生体は病気の兆候を認識します。
構造
リポ多糖は3つの部分から成ります。脂質Aは外膜を“ anchoring” する脂質の部分で、水には溶けにくい性質を持ちます。続く核心多糖は糖の鎖で、外膜の構造を安定させます。O抗原は糖鎖の長さや型が異なる部分で、細菌の種類ごとに違います。
どうして重要なの？
免疫系はLPSを異物として認識し、TLR4という受容体を通じて炎症反応を引き起こします。これが発熱や吐き気、血圧の変化などの症状につながることがあります。病原性の高い細菌ほど強い反応を引き起こすことがあり、仮に体内に大量のLPSが入るとショック状態に至る可能性もあります。
日常生活と研究での関わり
食品の表面にはごく微量のLPSが付着することがありますが、日常生活で健康に影響を及ぼすことは通常ありません。一方、研究現場ではLPSを使って免疫反応の仕組みを調べることがあります。扱う際には適切な安全対策が必要で、特に高濃度のLPSは生体に強い影響を与えるため、専門家の管理のもとで扱います。
覚えておきたいポイント
・リポ多糖は細菌の外膜の重要な構成要素である。
・高濃度のLPSは人体に危険を及ぼすため、専門家の管理が必要。
リポ多糖の特徴（表）
まとめ
リポ多糖は細菌の外膜にある大きな分子で、構造は3つの部分から成り、免疫系と深く関わります。正しい知識と安全な取り扱いが大切で、学問の題材としても魅力的なテーマです。
リポ多糖の同意語
- リポ多糖
- lipopolysaccharide（LPS）の日本語表現。グラム陰性菌の外膜を構成する脂質と多糖からなる大きな分子。
- リポポリサッカライド
- lipopolysaccharide の正式名称を日本語に近い表記にした名称。外膜を構成する大きな分子を指す。
- 脂多糖
- 脂質と多糖が結合した分子。日本語で最も広く使われる表現で、LPSそのものを指す。
- LPS
- 英語の略称。学術論文や教材で最も一般的に用いられる表現。
- リポ多糖類
- リポ多糖の総称・集合的表現。複数のLPS分子を指す場合にも使われることがある。
- リポ多糖体
- LPSを指す別表現の一つ。文献により用法が異なるが、同義として使われることもある。
- エンドトキシン
- 内毒素の別名。LPSが毒性成分として機能することから、同義語として使われることがある。
- 内毒素
- エンドトキシンの日本語訳。グラム陰性菌のLPS由来の毒性を指す語。
- 外膜脂多糖
- グラム陰性菌の外膜に位置する脂質と多糖からなる大分子。LPSの別名・説明表現として用いられることがある。
リポ多糖の対義語・反対語
- 非リポ多糖
- リポ（脂質）を含まない多糖。脂質成分を欠くことで、リポ多糖の対義語的イメージになります。
- 脂質なし多糖
- 脂質成分を全く含まない多糖。リポ多糖の構造要素の“脂質”がない状態を指します。
- 純粋な多糖
- 脂質成分を含まない糖鎖だけの物質。リポ多糖の“脂質部分”を除いた表現として使われます。
- ノンリポ多糖
- 脂質を含まない多糖の俗称。非リポ多糖と意味的には同じ使われ方をします。
- 脂質成分を含まないポリサッカライド
- 脂質成分を持たない長い糖の鎖＝多糖。リポ多糖の対になるイメージです。
- エンドトキシンではない物質
- エンドトキシンではない、つまりリポ多糖を含む可能性のない物質という比喩的対概念。
リポ多糖の共起語
- エンドトキシン
- リポ多糖自体の内毒素として、宿主に炎症反応を引き起こす物質。
- グラム陰性菌
- リポ多糖を外膜に持つ細菌のグループ。
- 外膜
- 細菌の最外層の膜で、リポ多糖が含まれる構造。
- 脂質A
- リポ多糖の脂質部分。宿主の受容体を強く刺激する毒性成分。
- コア多糖
- リポ多糖の共通の糖鎖部分。
- O抗原
- リポ多糖の多糖鎖部分。血清型を決める要素。
- LAL試験
- Limulus Amebocyte Lysateという内毒素検査法。医薬品の検査などに使われる。
- 内毒素検査
- 薬剤や製剤などから内毒素の有無を調べる検査。
- 敗血症
- 全身の感染に伴う過剰な炎症反応により起こる重篤な状態。
- 炎症反応
- 体の防御反応の一部で、発熱・痛み・腫れなどを伴う反応。
- 免疫反応
- 体が異物を排除するための反応全体。
- TLR4
- 宿主の受容体の一つで、LPSを検知して炎症を引き起こす。
- MD-2
- TLR4と結合してLPSの認識を助ける補助タンパク質。
- CD14
- 細胞膜上の受容体で、LPSの取り込みを促す補助分子。
- PRR
- パターン認識受容体の総称。微生物の共通分子を感知する。
- NF-κB経路
- LPS刺激後に活性化され、炎症性遺伝子の転写を促進する細胞内経路。
- MAPK経路
- 炎症性サイトカインの生産などを調節する細胞内シグナル経路。
- サイトカイン
- 炎症や免疫を伝える信号分子。例としてTNF-α、IL-1β、IL-6。
- TNF-α
- 強力な炎症性サイトカインの一つ。
- IL-1β
- 炎症を促す主要なサイトカインの一つ。
- IL-6
- 炎症と免疫反応を調節するサイトカイン。
- 宿主防御
- 宿主が病原体に対して持つ防御機構の総称。
- LPS分子構造
- 脂質A、コア多糖、O抗原という三つの部分から成り立つ。
- 免疫学
- 体の免疫機構と病原体の関係を学ぶ学問分野。
リポ多糖の関連用語
- リポ多糖
- グラム陰性菌の外膜を構成する大きな分子。脂質A・コア多糖・O抗原の3つの部分から成る。
- 内毒素
- グラム陰性菌のリポ多糖が血中で過剰に刺激を与え、発熱や炎症を引き起こす毒性成分。
- 脂質A
- リポ多糖の膜側にある脂質成分。強い炎症反応の主因で、LPSの生物活性の中心。
- コア多糖
- 脂質AとO抗原を結ぶ中間の糖鎖。細菌種により構造が異なることがある。
- O抗原
- リポ多糖の外部にある長い糖鎖。血清型を決める多様性の元。
- LOS
- リポオリゴ糖。Neisseriaなど一部の菌でO抗原を欠く構造。
- 滑らかLPS
- O抗原を有する長いリポ多糖鎖をもつタイプ。
- 粗LPS
- O抗原を欠く短いリポ多糖鎖をもつタイプ。
- グラム陰性菌
- 外膜を持つ細菌群。リポ多糖を外膜に持つのが特徴。
- 外膜
- グラム陰性菌の外側の膜で、リポ多糖が外部に露出する場所。
- LPS生合成
- リポ多糖を細胞内で作る生合成経路。
- リポ多糖輸送系
- LPSを外膜へ運ぶタンパク質群。LptA-LptGなどが関与する。
- WaaC
- コア多糖の生合成に関与する遺伝子のひとつ。
- WaaK
- コア多糖の生合成遺伝子のひとつ。
- WaaF
- コア多糖の生合成遺伝子のひとつ。
- WaaL
- O抗原をコアへ結合するリガーゼ酵素。
- 脂質A修飾酵素
- 脂質Aの鎖長や飽和度を変化させ、LPSの炎症活性を調整する酵素群（例: LpxL, LpxM, PagL, LpxP）。
- LpxL
- 脂質Aの第4番目のアシル鎖付加を行う酵素。
- LpxM
- 脂質Aの追加アシル鎖を付ける酵素。
- PagL
- 脂質Aの脱アシル化を行う酵素。
- LpxP
- 低温時に脂質Aに新しいアシル鎖を付加する酵素。
- TLR4
- 宿主の主なLPS受容体で、脂質Aを認識して炎症シグナルを始動する。
- MD-2
- TLR4と複合体を作ってLPSを認識する補助タンパク質。
- CD14
- 血清中・細胞膜上の補助因子でLPSをTLR4へ渡す役割。
- MyD88経路
- TLR4経路の主要なシグナル伝達経路で炎症性サイトカインを誘導する。
- TRIF経路
- TLR4の別経路で、遅延性のシグナル伝達を介してIFNなどを誘導する。
- NF-κB
- 炎症関連遺伝子の転写を活性化する重要な転写因子。
- MAPK
- 炎症シグナル伝達に関与する一群のキナーゼ経路。
- サイトカイン（TNF-α, IL-1β, IL-6）
- LPS刺激で放出され、発熱・炎症・臓器障害を引き起こす主要な分子。
- 発熱原性
- リポ多糖が体温上昇を促す性質。
- 敗血症
- 全身の炎症反応と臓器不全を伴う重篤な感染症の状態。
- エンドトキシンショック
- LPSが過剰に放出され血圧低下・多臓器不全を生じる重篤な状態。
- LALテスト
- Limulus Amebocyte Lysateを用いてLPSを定量・検出する検査法。
- ホットフェノール法
- 古典的なLPS抽出法。
- LPS除去法
- 体内・医療機器からLPSを除去する方法。
- ポリミキシンB
- 脂質Aに結合してLPSを無毒化・殺菌作用を示す抗菌薬/物質。
- PMX-DHP
- ポリメリキシンB固定化ファイバーを使った体外LPS除去療法。
- エンドトキシン耐性
- 内毒素への過剰な反応を抑える耐性・耐性機構。
- PAMP
- 病原体関連分子パターン。免疫が認識する共通の分子特徴。
- PRR
- パターン認識受容体。PAMPを検知して免疫を起動する受容体。
- O抗原多様性
- O抗原の組み換え・変異により血清型が多数生じる現象。
- Neisseria meningitidis LOS
- Neisseria meningitidisで見られるリポオリゴ糖（LOS）。
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